たけうち心療内科の特徴的治療

Neurofeedback

1.はじめに

 現在、ニューロフィードバック(以下NF)は海外において目覚ましく発展している1)The Association for Applied Psychophysiology and Biofeedback (AAPB)International Society for Neurofeedback and Research(ISNR)Biofeedback Federation of Europe(BFE)など専門的な学会も存在し、研究論文もここ10年で増加している2)。またコンピュータ技術や機器の開発に伴い、より複雑な方法が可能になっている。しかし、最も発展している米国でさえ、その技術が医学的治療として受け入れられているわけではない。The U.S. Food and Drug AdminstrationFDA)はNFをリラクゼーションツールとして認定しているに過ぎない3)。近年fMRIを用いたデコーディッドNFDecNef)法の研究から、ある種の訓練により脳機能が変化することが実証されるに至った4)。つまり、脳機能をターゲットとした能動的訓練が、実際に脳機能を変化させること自体は証明されたといえる。しかし、fMRIを用いたNFは特殊な施設でしか行えず、現実的には脳波や脳血流、脳電位を用いる技術がNFの中心となっている。このタイプのNFについては未だにプラシボではないかという議論が絶えることはない1)

 筆者は30年以上心身医学の臨床に携わってきた。当初、摂食障害の治療に深く関わってきたが、その頃は本疾患の治療の中心は家族病理や体重・体型に関する認知のゆがみの修正に置かれていた。患者との関わりを続ける中、1990年代半ばから、認知のゆがみというより発達障害的傾向が存在するのではないかと考えるようになった。現在、成人の発達障害については広く認知されているが、当時は成人の精神疾患と発達障害との関連を示すような情報はほとんどなかった。当院は2004年に開院したが、摂食障害だけではなく、成人の精神疾患や心身医学的疾患の背景に発達障害という問題があることに注目した臨床を行ってきた。

 発達障害者の多くは身体感覚に問題を抱えている5)。治療上、内省的理解や心身調整のためには知的理解だけではなく体感による理解(腑に落ちる)が重要であるが、体感が理解しにくい場合、症状のコントロールに苦慮することが多い。そういう場合、心身医学的には身体的アプローチとして自律訓練法やバイオフィードバック療法を併用することがあるが、体感が希薄な人にはそれすらイメージできないという壁にぶつかった。

 その頃、NFという技術を知ったが、当初は意識的に脳波を調節する技術だと勘違いしていたため、あやしい技術と考えて導入することはなかった。インターネットで検索すれば、海外では発展している技術である事は明らかであったため、2006年頃に思い切ってNFの機械を購入した。購入したものの何をどうしてよいのか皆目見当がつかなかった。その当時、国内ではほとんど情報を得ることができなかったが、佐藤譲は米国で技術を習得し、ニューロフィードバックジャパンを立ち上げていた。2007年、我々は佐藤の指導を受ける機会を得て、当院でも日常臨床に応用することができるようになったわけである。

 NFは心身医学的課題に介入するための重要な手段である。特に発達障害を背景に持つ病態では、表現された症状の背景に脳の機能的問題が存在している。そのため、表現された言動、行動の変容を目指すだけでなく、より本質的な機能変化をもたらすように働きかける必要がある。NFはそういう変化が期待できる技術であると考えている。

2.ニューロフィードバックの歴史

バイオフィードバック療法として最初に脳波を用いたのは、Joe Kamiyaによるアルファ波の研究である。1960年に彼が行っていたアルファ波実験が1968年にPsychology Todayに掲載6)されたことでNFが普及した。その実験は、アルファ波状態をフィードバックする訓練をすることで、能動的にアルファ波状態はいることができることを証明するものであった。アルファ状態はリラクゼーションと関連し,その訓練はストレスおよびストレス関連条件を軽減する可能性へとつながっていった。

 Barry Stermanは、1960年代に猫の餌取り行動に伴う脳波実験を行っていた。猫が餌をとる前に一瞬動きが止まるときに脳の感覚野および運動野にかけての帯状領域に、紡錘状の同期性脳波の急激な増加が起こることを発見し、この特異的な律動的脳波パターンを感覚運動リズム(sensorimotor rhythmSMR)と名付けた。これは、次の行動に移る直前の一瞬の精神の静止状態と関連していた。その後、SMRを誘発するという脳波の条件づけ実験を行った。当時、米国では人類を月面に送る計画が進められおり、ロケット燃料の人体へ悪影響について研究されてた。その調査に関わったStarmanらは、50匹の猫を使っててんかん発作の誘発実験を行った。実験ではロケット燃料の投与により発作が誘発されたが、10匹の猫は誘発される閾値が高く、3匹は発作を起こさなかった。特殊な反応をした猫たちは、彼がその前にSMRを増加させる実験に使われた猫たちであった7)。この偶然の発見により、彼はSMR成分を増加させる訓練は、脳を安定させ、てんかん閾値を上げるのではないかという仮説をたて、後に人においてその効果を実証したのである8)。その後、Joel LubarSMRや他の脳波状態などを用いて、注意欠陥多動性障害(ADHD)の患者に、行動を静止し注意力を高める研究を行い、ADHD児のNF訓練の有効性について最初に報告した9)。以来、NFADHDへの効果を中心に発展していった。

 このような経験の蓄積により、人間が何らかの訓練を行うことで、脳波成分に影響を与え、それが人体への何らかのプラス効果をもたらすという概念が成立したわけである。現在は、コンピュータ技術や生体情報の測定技術、機器の著しい進歩により、扱える範囲がどんどん拡大し、NFの方法は多彩で複雑になっている10)

3.ニューロフィードバックのメカニズム

 1960年代のStarmanによる猫の実験に代表されるように、動物実験では脳波をオペラント学習で変化させられることは分かっていた11)。人為的行為により脳波成分あるいは脳機能に何らかの影響を及ぼすことができるという現象が発見されたが、いかなるメカニズムによってそれが達成されるのかが重要である。現在のところ、異論はあるもののオペラント条件付けが主たる根拠となっている12)

 オペラント条件づけは、オペラント行動が自発的に行動された直後の環境の変化に応じて、その後の自発頻度が変化する学習をいう。動物実験による脳波のオペラント学習を考えると、動物が無条件に求める餌取り行動と、アルファ波やSMR波のような特定の周波数の増加とを結びつけるというわかりやすい形になり、学習効果の判定も明確である。ところが人の脳は複雑であり、何が強化因子になるのかも人によって異なるが、一つの前提に立たないと汎用される技術にならない。基本的な理論としては、脳波パターンにある種の条件を課し、そのパターンを満たした時に、音、映像、ゲームなどがより好ましい反応をするように設定される。人の脳は、新奇性、審美性、達成感などを求めるため、それが正の強化を生み出す報酬となるということが前提となる13)

 表面的には脳波の変化を目標としているわけだが、目標とする脳波条件をどのように設定するかが更に重要である。脳科学研究により、脳内ネットワークが解明されつつあるが、NFの目標もある種の周波数を高めることではなく、その背後にあるネットワークの強化を目標としている15)。また「細胞Aの軸索が細胞Bを発火させるのに十分近くにあり、繰り返しあるいは絶え間なくその発火に参加するとき、いくつかの成長過程あるいは代謝変化が一方あるいは両方の細胞に起こり、細胞Bを発火させる細胞の1つとして細胞Aの効率が増加する。」 というHebb14)NF効果を説明するための重要な根拠となっている。

 NFは無意識レベル、意識ではなく細胞レベルの訓練であるが、そのイメージを理解しづらいことがNFを理解しにくいもの、怪しげな物にしていると思われる。筋電図、呼吸、心拍など、通常のバイオフィードバックは意識化しにくい生態情報を映像や音の刺激としてフィードバックし、意識的に調整することを学習する。つまり自覚的意識を使った訓練ということになる。それらの生態情報は、そもそも意識的に調節できるものであり、分かりにくいものを分かりやすくするのである。脳波において、Kamiyaの実験でアルファ波を自覚的に増やせることが証明されたが、それは現在のNFの目標ではない。アルファ波の場合、閉眼で増加することは生理的反応であるため、他の周波数とは意味が異なる。一般的には脳波を意識的に制御することはできないため、NFを行う場合は脳波を調節するのではなく、脳波パターンの変化に伴う映像、音の変化に集中する、あるいは見ているだけとか聞いているだけである。つまり脳波の情報を脳自体にフィードバックするのだが、そこに意識的操作は介在させない。むしろ、意識的操作はマイナスになる。なぜなら、脳機能、ネットワークの変化をもたらすことが目標であるが、意識をつかうということは既存のネットワークを使うことになるからである。

4.具体的な方法

NFの方法は、機械の性能や脳波情報の処理プログラムに完全に依存するので、黎明期と現在とは比較にならないほどの変化を遂げている。基本的な考え方は、脳から得られる何らかの情報により好ましい方向性を明確にフィードバックするということである。どのような成分をどう解釈し、どう返すのかは他のバイオフィードバックより複雑である。ほかの身体要素をつかうバイオフィードバックは明らかにおかしい部分をより健康な形に近づけるというコンセプトは誰しも受け入れやすい。しかし、脳は極めて複雑で、そもそも脳の多くのことが解明されていない今、ある情報をどう理解し、どう返すのかに誰もが理解できる分かりやすい方向性はない。そこで、ある程度仮説をたて、理解しやすい情報に変換して方向づけすることになる15)。エビデンスに関しても部分的なものでしないので、ここでは現段階で行われているNFの方法を示す。

 脳波は一般的に「デルタ波(0-4Hz)、シータ波(4-8Hz)、アルファ波(8-12Hz)、ベータ波(12-30Hz)に分類される。脳波の基本的研究によりそれらの周波数がどういう状態で増加するのかはわかっている。(

 一番基本的な方法はこれらの周波数のバランスをNFの技術で変化させることである。トレーニングに用いられる電極の位置は通常の脳波測定に用いられる10/20法で決められた部位が用いられる。トレーニングにはこの中の1~2カ所の部位が用いられることが多いが、機器の進歩により4カ所同時に行うことは困難ではない。さらに19カ所同時に行う方法も行えるようになっている。

 どの部位のトレーニングを行うかについては、施設によって異なる。脳皮質の部位と機能についてはある程度解明されているため、症状ベース(例えば集中力を高める、衝動性を抑えるなど)で部位を決めるという考え方もあるが、現在主流なのは定量脳波による脳マップを参考に、偏りの大きい部位を修正することを目標に行われる16)NFの概念は確立されたものではないため、様々な技術が試みられている。現在行われている主な技術は以下の通りである。

1)周波数トレーニング

 簡便な機器によって短時間で行えるため、もっとも汎用されている方法である。1~4個の電極を頭部に装着し、周波数やそのパワーを調整する方法である。SMR成分をたかめる訓練はADHDの集中力の改善に利用されている。

2)アルファシータ(A/T)トレーニング

 A/Tトレーニングは主にアルファとシータ成分共に上昇させるプロセスである。アルファ成分とシータ成分を異なる割合で強化するが、このトレーニングによりアルファ波成分は減少し、シータ波成分は上昇しはじめる。シータ波成分がアルファ波成分を上回ることをクロスオーバーとよび、この状態になると、過去のイメージや、抑圧された感覚、感情の再生が出現しやすくなると言われている。メカニズムについては十分解明されてはいないが、このトレーニングは瞑想や催眠のような深いリラクセーション状態と関係していると言われている。もともとアルコール依存症への効果として開発されたが、現在はPTSDをはじめ深いリラクゼーションを必要とする状態に利用されている。最近の研究ではデフォルトモードネットワークを高めることが示唆されている17)

3)コヒーレンストレーニング

 従来のニューロフィードバックで行われていたように特定の脳部位での振幅トレーニングに焦点を合わせるのではなく、部位間のコミュニケーションまたは脳内の異なる神経学的領域と関係に着目する。コヒーレンスは、異なる脳領域間の周波数の類似性の尺度である。脳の領域は、低コヒーレント(異なりすぎて接続が少なすぎる)または高コヒーレント(多すぎる)のどちらかになることがあり、どちらも部位間のコミュニケーションが悪くなる。コヒーレンストレーニングは、異なる脳領域間の接続性を改善するために使用され、その結果、ニューラルネットワークが改善される。

4)19ch Z-scoreトレーニング

定量脳波(QEEG)データベースを用いて全19表面部位同時に訓練を行う。振幅、power比、コヒーレンスなど任意の数のターゲットを使用することができる。トレーニングの目標は、QEEGデータベースと比較して標準値に近づけることである。

5)LORETA (low-resolution electromagnetic tomographic analysis) トレーニング

 LORETAは、脳波計で測定された電気活動を脳アトラス上に描く解析手法である。PETfMRIと相関性の高い脳波ベースのニューロイメージング技術であり、それらよりも優れた時間分解能を提供することができることが実証されている。LORETAは、脳の3次元画像を計算し、表面EEGパターンの深い構造や皮質内発生部位を同定することができる。従来のNFは脳の表面部位に焦点を当てているが、LORETAは、脳の深い構造を訓練するため1回のセッション中に複数の問題を処理できるとされている。

6)SCPSlow Cortical Potential)トレーニング

 SCPは通常1Hz以下の脳内の電気的活動である。いくつかのメカニズムによって生成されるが、主な供給源は、神経細胞を支え調節するグリア細胞であり、脳の活性化と脳の安定性に密接に関係している。SCPの陰性化は、基礎となる神経構造の興奮の閾値の低下を反映し、行動的または認知的処理の促進につながる。SCPの陽性化は、基礎となる神経構造の皮質興奮の減少を示し、行動的または認知的処理の抑制につながる。SCPの調節はADHDの子供では弱く、SCPトレーニングは、皮質興奮性の調節を高め、ADHDの症状を軽減する18)

  他の技術が米国を中心に発展したのに対し、この技術はドイツを中心に発展した。通常のNFが多部位で複雑な方向に発展しているのに対し、この訓練は通常、頭頂の1部位でトレーニングを行う。SCP信号はアーチファクトに対して非常に脆弱であるため、SCPシグナルは眼球運動に対する補正が必要である。

7)HEG (Hemoencephalography)トレーニング

 脳血流情報をフィードバックし、脳血流を増加させることで脳機能を高めることを目的とした技術である19)。脳血流情報の検出方法は以下の2種類がある。

nIR(Near infrared):赤外線の光を頭蓋を通しその下の皮質に送る。皮質組織内の脳血流から反射された光の量を測定し、酸素化レベルを視覚信号としてフィードバックする。

pIR(Passive infrared):活動的な脳領域によって発生される熱量、局所的な血液酸素化レベルに対応する赤外線を検出する。pIRnIRよりも解像度が劣り、脳血流のより全体的な増加に焦点を当ている。

 この技術は通常、前頭部に装置を装着して行う。この部位は通常のNFでは眼球運動や筋電図が混入しやすいため訓練しにくいが、HEGではその影響は受けない。

 15の技術はニューロンレベルの活動性を調整するが、67はより広い範囲の機能を調整する。脳機能を考えるとき、血流、グリア細胞、ニューロンは関連しあうが別々の機能である。さらに血流は呼吸心拍などの自律神経機能と強く関係する。トレーニングはある部位の強化を目的とするが、それは全体との関連の中に存在しているので、入り口がどこであるかかの差であるとも言える()。周波数を利用した訓練はニューロン、SCPトレーニングはグリア細胞、HEGは血流レベルのトレーニングといえる。更に通常のバイオフィードバックも間接的に脳に影響を与えることは明らかである。

 NFは意志的な過程ではないと前述した。ニューロンレベルの訓練、周波数訓練は意図的に操作するものではなく、フィードバックされる情報が脳機能を自然にある方向に誘導していくものである。しかし、SCPトレーニング、HEGトレーニングについては、フィードバックされる情報も単純なもので目標が明確であるため、通常のバイオフィードバックのように、どうするとうまくいくのかをイメージしながら訓練することになる。どの訓練が有効かも重要であるが、役割が異なるし、個人の能力や反応性も異なるので、何を選択するか、どう組み合わせるかを検討すべきだろう20)。またそれぞれの訓練は機器装着の煩雑さや安定性、所要時間、さらに諸経費に大きな差があるため施設の機能、かけられる時間などによっても使用できる方法は制限される。

5.定量脳波Quantitative electroencephalogramQEEG)21)

 ニューロフィードバックを行う上で、現在欠くことができないのがQEEGである。歴史的にみれば、その技術が確立する以前からNFは存在していたので、リラックスならαトレーニング、集中力やてんかんにはSMRトレーニングという症状や状態を目標としたやり方もある。脳波測定機器が小型化、デジタル化され、コンピュータ技術の進歩により、簡便にQEEG測定やそのz-score化、部位間のコヒーレンス測定などができるようになった。そういう技術的進歩に伴って、NFの目標も、QEEGの結果をベースとして、標準からずれている部位をターゲットし、標準値に近づけることを目標とすることが多い22)

 通常の脳波測定は、てんかんや脳機能異常の診断のため、異常波検出を目的としている。あるいは、睡眠ステージを評価するために用いられる。NFのために行うQEEGは、異常の検出ではなく、現在の脳機能のパターンを評価するために行う。正常データベースからのずれを評価し、ずれが大きい部分は何らかの機能的問題があると考え、それを修正することが機能の改善につながると考えられている16)

6.心理療法としてのニューロフィードバック

 NFは技術的問題であり、その技術による生理学的変化や純粋な効果が重要視されている。NFに限らず、いかなる治療においても、治療者との関係や、関わり方が心理的影響を与えることは明らかである。方法論、効果を論ずるときには、これらの要素は純粋な結果をゆがめるものとされ、できるだけ排除することが要求される。NFにおけるクライエントと治療者との関係について積極的に論じられることはないが、NFは心理的関わりとしても極めて特殊であり、その関わり方がプラスになるケースがあることを強調したい。

 どのような心理的関わりであっても、行う側は相手から何らかの情報を引き出そうとする。プレイセラピーであっても、何らかの課題を与えられることになるし、その課題が苦手であったり、無防備に表現することが苦手であったりする人はいるだろう。NFは基本的にはクライエントに対して、「何もしなくてもよい」と指示し、実際にゲーム画面か映像画面をみているだけである。対人緊張が強いケース、言語的関わりが難しいケース、発達障害圏の子供であっても経験的にはほぼ問題なく導入できる。その関わりを継続することで、施術者と共にいる事への抵抗が少なくなり、自然に治療関係が安定することが多い。中には、NFを継続しているうちに、言葉でのカウンセリングを希望するようになるケースもある。治療的に関わりが難しいケースには最も導入しやすい技術であると考えている。

7.NFの現状と問題点

 NFの歴史において、エビデンスやプラセボ効果1,3, 23)についての議論が絶えることがない。ADHDへの効果24)を中心に、エビデンスを示す論文も数多く出されているが25)、通常の医学的治療に準ずる精密な二重盲検的な試験が成されていないという批判も多い26)ADHD、発達障害、抑うつ、不安、PTSD、依存症などの治療を目標としてNFをおこない、効果の有無を検討されるが、そもそも、病名が同じであるからといって脳機能に一貫性があるという保証はない。正常な脳、異常な脳という線引きは極めて難しいだろう。問題があっても発症していない人は存在する。同じ症状でも症状の重さ、問題の複雑性などを脳機能のレベルで正確に分別することは困難であろう。

 その中でも疾患ではなく健常者を対象として、NFをおこない、MRIにて白質レベルでの変化を示した研究27)は重要な意味をもつ。また、近年の流れとしてfMRIを用いたデコ-ディッドNFにより、問題部位をターゲットとして画像情報などをフィードバックして脳の変化を起こせることが証明されたことは4,28)、方法論は異なるとはいえ、NFが脳の器質的・機能的変化を起こせることの証明につながる可能性が高い。

 そもそも、NFは治療なのか訓練なのかという位置づけが不明確であることが問題であると考える。海外のホームページを検索すると、NFを行っている施設は年々増えているが、施設によって、「therapy」「training」「treatment」など表現に差がある。治療と位置づけるなら疾患が対象となり、通常の医学的治療の方法論に基づいて有効性を証明しなくてはならない。世の中には数多くの訓練があるが、訓練である場合には精密なエビデンスを要求されることはない。訓練は自然治癒力を高める方法であり、病巣自体を修正する方法ではないからである。発達障害において様々な療育法があるが、効果がある人とない人がいても、誰もそれを疑問には思わない。人の反応性には著しい個体差があるし、施行者の能力や経験によって効果に大きな差がでるのは当然であり、表面上全く同じ事を行っても同じ効果は得られない。NFの議論は鍼灸など東洋医学的アプローチに対する議論に似たところがある。鍼灸治療はNFに比べたら気が遠くなるほどの歴史をもっているが、未だにエビデンス、プラシボ問題が議論され、医学の世界でメインストリームになることはない29)。そういう状況であるから、意味がないと考えるのか、個体差に応じたオーダーメイドの訓練と考えるのかによって、今後扱いが変わってくるだろう。今後、賛美する人も非難する人も、先入観にとらわれず、評価法を再検討し、効果と限界について冷静に慎重に発展することが望まれる30,31)

8.ニューロフィードバックの位置づけ

 ニューロフィードバックは測定機器やコンピュータ技術に大きく依存する領域である。近年の技術的進歩は、より複雑なかつては想像もできなかった領域にフォーカスしたトレーニングが可能になっている。それは可能性を広げることになるが、ともすると技術優先になりより本質的問題を見失いことにもなりかねない。脳機能は複雑で、解明されていることの方が少ない。神経活動は全体のネットワークの中にあり、どのように絡み合っているのかわからない。デフォルトモードネットワークが2000年代に入って発見されたように32)、今後どのような全体像が見えてくるのかわからない。現在の技術により、ある疾患との関連部位が同定されたとしても、それが原因であるのか、何らかのネットワーク失調の結果であるのかはわからない。問題部位を修正することが本質的解決なのかどうかもわからないだろう。

 現時点では、NFは脳機能を訓練する今までにはない方法と考えるのが妥当ではないだろうか。一般的に治療というものは、病巣部位を同定して修正、排除という方向性と、症状を起こりにくくする、あるいは、弱い部分を補完するような機能を高めるという方向性がある。言い古された言い方をすれば「病理・治療の西洋医学」と「体質・調整の東洋医学」のパラダイムの差である。NFはどちらかといえば、潜在的な機能を賦活し、病的な流れとのバランスを修正する技術と思われる。具体的な例を挙げれば、てんかんに対するNFである。それは異常部位を治療(手術、薬物療法など)するのではなく、てんかん発作を起こりにくくする機能を高める訓練である。

 NFが治療的であると仮定すると、その他の治療法と効果の競争をさせられることになり、最終的には効果が劣るとして排除される可能性もある。しかし、通常の治療を補完する訓練であると仮定すれば、もっと適応範囲は広がるであろう。精神科、心療内科領域の治療においては薬物療法や心理療法だけで十分とはとてもいえない。NFという技術は、非侵襲的であり、適応できる可能性は広い。特に言語的直接的関わりが重荷になるケースにおいては、さりげなく周辺から関わり支え続ける極めて安全な方法である。今後、日本においてもこの技術が広がっていくことを期待したい。


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