睡眠呼吸障害とは、睡眠に関連して生じる呼吸障害の総称です。1980年代前半には、きわめてまれな疾患とされていました。しかし、その後、欧米では有病率は1-2%程度と報告され、1990年代には日本でも同程度の頻度とされていました。最近、不幸な事故をきっかけに、多くの人々の知るところとなり、また、検査が受けやすくなったことも関係してか、その頻度は報告の度に上昇し、最近では4-6%とか、さらに20%はいるという報告もあります。
平均的には、4-6%の有病率で、そのうち半数(2-3%)は治療が必要な中等症(無呼吸/低呼吸指数AHI 20以上)ということになります。この数値は呼吸器疾患でいうと気管支喘息と同等であり、糖尿病や高血圧のような他の生活習慣病にせまると言われています。
年齢と性別では、働き盛りの壮年期(50歳代)に最も頻度が多く、男性に多いとされています。睡眠時無呼吸症候群の患者は他の合併症を起こすことも多いです。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群
(1)臨床症状
閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠時の上気道閉塞による10秒以上持続する閉塞性あるいは混合性の無呼吸(上図)が頻回に起こり,夜間の睡眠分断と動脈血酸素飽和度の低下を来す疾患です。
主症状として,日中の眠気,大きなイピキ,睡眠時の窒息感やあえぎ呼吸,夜間の頻尿,覚醒時の倦怠感などが認めらます。睡眠中のことで、本人は分かりません。そこで、家族が異常ないびきに気づいて受診を進められることが多いです。
身体的な特徴としては,肥満,脂肪が多く、短い首,上気道の狭小化,小下顎あるいは下顎後退が認められます。また,小児で口蓋扁桃の肥大により本症候群が引き起こされることがあります。
日中の眠気は夜間の睡眠分断に起因し,その結果として,交通事故,労働災害,学業・作業能率の低下,家庭・社会生活上の問題,記憶・集中力の減退,抑うつ状態,生活の質(QOL)の低下を来します。また,夜間の低酸素血症を長期間繰り返すことによる心循環器系の合併症として高血圧症,肺高血圧,肺性心,不整脈,虚血性心疾患を生じ,時には突然死に至ることもあります。中枢神経系の合併症としては,低酸素脳症,認知障害,乳頭浮腫,脳血管障害が認められることもあります。
2)診断
次のA,B,Cの症状が認められる場合,この疾患の疑いが高いです。
A.強い眠気がある。時として,患者はそれらの症状を自覚しないことがあるが,その場合には周囲の者によって症状が観察される
B.睡眠中に閉塞性の呼吸停止が頻回に生じる
C.随伴症状
1.大きなイビキ
2.朝の頭痛
3.覚醒時の口渇
4.幼児においては,睡眠中の胸壁の陥没
診断の確定には,携帯型装置(鼻口呼吸センサー,気道音センサー,パルスオキシメーター)による睡眠中の呼吸状態の記録や終夜睡眠ポリグラフ検査が必要であり,その検査で異常が認められた場合、専門機関への紹介が必要となります。ただし、無呼吸/低呼吸指数(AHI)が40回以上あれば、精査するまでなく、睡眠時無呼吸症候群と診断さえ治療が必要となります。家族からの情報聴取や消灯後30分から1時間程度のイビキの状態を家庭で録音してきてもらうだけでもほぼ臨床的には診断可能です。
終夜睡眠ポリグラフ検査では,胸腹部の呼吸運動があるにもかかわらず鼻口部の換気が10秒以上停止,すなわち上気道の閉塞による呼吸障害の所見がみられ、これが睡眠1時問あたり5回以上出現する場合には病的とみなされます。これに加えて,無呼吸に伴う頻回の覚醒反応や動脈血酸素飽和度の低下がみられます。
日中の眠気の重症度評価にはエップワース眠気尺度が有用であり,エップワース眠気尺度では10点以上のことが多いです。
終夜睡眠ポリグラフ検査により,無呼吸/低呼吸指数(AHI)(睡眠1時間あたりの回数)が
AHI 5〜15の場合 軽症
AHI 15〜30の場合 中等症
AHI 30以上の場合 重症
診断の流れ
簡易検査とは、当院でも施行している簡易型終夜睡眠ポリグラフィー
PSG検査とは 専門施設で一拍入院して行う、終夜睡眠脳波を同時に測定する検査
鑑別診断
上気道抵抗症候群,中枢性睡眠時無呼吸症候群,中枢性肺胞低換気症候群,原発性イビキ症
3)治療
次に示すようなさまざまな治療があります。適切な治療の選択にあたっては,内科,耳鼻咽喉科,歯科口腔外科,神経精神科など,この疾患に関連する診療科による総合的な評価が必要です。
(1) 生活指導
肥満に伴って発症・増悪している場合には,減量させると上気道周囲の組織の肥厚が軽減するため,症状が改善すします。上気道の閉塞は仰臥位で誘発されやすくなるので,軽症例では抱きまくらなどを利用して側臥位で眠る習慣をつけると,無呼吸の回数を減らすことができます。不眠を訴え睡眠薬を投与されていたり,寝酒を飲む患者も多いですが,睡眠薬・アルコールは無呼吸を悪化させるため服用は基本的に禁止です。
(2)持続陽圧呼吸療法(Continuous PositiveAirway Pressure : CPAP)
特殊なマスクをつけ上気道内を常に陽圧に保つことで,上気道の閉塞を防止します。近年,持続陽圧呼吸療法が保険適応となり,機器も小型化したため,在宅で行えるようになっています。
(3)歯科装具による下顎前方固定法
マウスピース様の歯科装具を用いて睡眠中の下顎の後退を防止することにより,舌の沈下による気道の閉塞を防ぎ無呼吸を改善します。
(4)外科的治療
軟口蓋の肥厚が著明な場合には口蓋垂軟口蓋咽頭形成術,口蓋垂軟口蓋形成術が行われます。
(5)薬物療法
呼吸促進作用のあるアセタゾラミド(ダイアモックス),プロゲステロンや睡眠中の筋緊張を強める三環系抗うつ薬などの薬物療法も行われます。
症例
55歳,男性。身長162cm、体重90kgでBMIは34.3と高度の肥満がある。夜間睡眠時に断続的に激しいイビキがあり、配偶者の観察では頻回な呼吸停止がみられていた。また、夜間の頻尿、口渇を認め、熟睡感がなく、覚醒時の倦怠感の訴えがみられた。会社の役員であるが、会議中に居眠りをしたり、車を運転中に追突事故を起こしたりしたこともあったため、近医の紹介で受診した。エップワース眠気尺度では14点であり,終夜睡眠ポリグラフ検査では無呼吸/低呼吸指数が98.3、MSLTでは平均入眠潜時が3分であった。
CPAP治療を1年間
継続して行ったところ、無呼吸はほば消失し,臨床症状の改善が認められた。
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