睡眠時無呼吸症候群

心拍変動は単純な非侵襲的(体を傷つけない)手法であり、心拍一拍ごとの変動を測定することにより心臓の自律神経緊張の指標となる。心拍変動は、加齢によって減少し、さらに自律神経の障害が生じると、自律神経のバランスは交感神経優位へ偏位し、特に高齢者では心血管系の変性が促進される。心拍変動の低下は、おそらく交感神経緊張の亢進と副交感神経緊張の減少によると思われる。それは、心不全、冠動脈疾患、急性心筋梗塞による死亡率と関連がある。

心拍変動の検討には、全心拍変動の評価と、心拍の周期変動の周波数成分をパワースペクトル解析する操作が含まれる。心拍変動のパワースペクトル解析は、3つの周波数領域に分けられる。

VLF: 低周波数成分(0-0.05Hz)には血管運動活動、レニン・アンジオテンシン系、そして体温調節を反映

LF: 中間周波数成分(0.05-0.20Hz)は圧受容体系の反映

HF: 高周波数成分(0.20-0.35Hz)は呼吸変動の反映

副交感神経刺激に対する迅速な心拍応答と、交感神経刺激に対する緩徐な応答のためそれぞれ交感神経、副交感神経優位の周波数帯の差が生ずる。

HF成分は呼吸によって生ずる副交感神経活動によって影響を受ける

LF成分は交感神経と副交感神経活動によって影響を受ける

VLF成分は主として交感神経活動、一部副交感神経活動により影響を受ける

LF/HFは交感神経機能の指標として用いられる。

下の図は、周波数成分の説明である。まず、aのように、心臓の一拍一拍T1-T6の時間は微妙に変化している。その変化をグラフ化したものが、bである。このギザギザが、心拍の揺らぎを表している。さらに、そのゆらぎの周波数を解析すると、0.1Hzあたりにピークを持つLF成分と、0.25HzあたりにピークをもつHF成分に分かれる。そのスペクトル成分のパワースペクトル密度を求め、それを自律神経機能の目安とする。

HF成分のパワーを副交感神経機能の指標

LF成分のパワー/HF成分のパワーを交感神経機能の指標とする。

 

HF,LF成分が自律神経の指標となる根拠として、立位、臥位での変化がわかりやすい。下の図のように、臥位の時は、HF成分が多く、立位にするとLF成分が高くなる。心拍のタコグラムでも、立位では呼吸変動による細かいリズムが消失し、緩やかなリズムが主になることが分かる。

さらに、臥位の状態から機械的に立位にする(tilt test)を行い、その後、また臥位に戻すと。下の図のようになり、自律神経機能の変化がはっきり分かる。

また、自律神経機能が精神的ストレスによっても変化することが、心拍変動を用いると下図のようにはっきりしめされる。精神的ストレスを負荷すると、上のtilt testと同様に、HF成分の抑制とLF成分の増加が起こることがはっきり分かる。

これらの指標をつかえば、これまでわかりにくかった自律神経機能の現在の状態、変化、治療による改善効果などが客観的に示される。当院では、心拍変動を使い病態把握に役立てている。

さらに、自律神経機能には日内変動がある。ストレスの持続、疾患により、この日内変動がくるうわけだが、この日内変動は、一時点の自律神経機能よりさらに、本質的な問題を明らかにすることができる。


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